ポルトガル人の道7  6月28日(火) Rubiaes - Tui

 Rubiaesのアルベルゲ。今朝もインスタントスープを作り、玉子3個入れてチョコパンとヨーグルトの朝飯にする。前の日に買い物が出来ていると朝からちゃんと食べることができるので安心するものがある。ポルトガル人の道にもバルはあるが、朝早いと開いてないし、それ以前にバルの数が少なすぎる。今日は6時半に出発する。道端の立派なモホン(道標)にはポルトガル語で「ボン・カミーニョ」良き巡礼をと書かれている。スペイン語なら「ブエン・カミーノ」で、スペイン語とポルトガル語はとても良く似ている。

 1時間歩いた所にあった村のバルに寄ってカフェコンレチェ0.85ユーロ。日本円なら一杯が百円もしないので気楽によることができる。さっき書いたばかりだが、ここのバルは朝早くても開いていたので、ここで朝食を食べて行く人が結構いるようだ。十人近くいる客は全員ペリグリノ。

 舗装道路を歩き続ける。後ろからマツコ似のフランシスカがやって来るのが見える。と、暫くしてから振り返ったら姿が見えない?え、なんで?振り切ってしまうほどのスピードでは歩いていないのでこれは変だと気が付く。どうやら脇道に行くべき所を見逃してしまったようだ。地図で確認すると、暫く先でこの道と巡礼路が再び交差するのが分かったので、そこを目指して歩き続ける。

 案の定、1時間も歩かないうちに黄色い矢印が道路を横断するところに辿り着く。その道の先に目をやったところ、100m先をマリアとターニャが連れだって歩いているのを発見する。笑ってしまうほどのタイミングだ。追いかけて行って合流し、この後は今晩の宿までずっと一緒に歩く。

 ターニャが今朝上げたリンゴをかじり出したので、私も同じのをバックパックから出してかじりながら一緒に歩いて行く。名前は女性的で素敵だが、ターニャの性格は男っぽくて非常に面白い。小指が変な方向に曲がっているので聞いたら「ファイティング」と言っている。喧嘩して骨折したままになっているらしい。ターニャって本当に殴り合いのケンカをやりそうなので冗談で言ってないのが分かるから、ここでまた更にターニャのキャラがアップする。

 前から気になっていたターニャのバックパックについて聞いてみる。肩ベルトにタオルが巻きつけてあるので、これはなんだと聞いたら、クッションだそうだ。それは分ってるが話の取っ掛かりとして聞いただけだ。やっぱり背負い方が間違っているので肩が痛いようだ。肩じゃなく腰で背負うんだと、バックパックを持ち上げて腰ベルトを調整するように言うが、ターニャはウエストが細すぎて普通にやるとベルトがこれ以上締まらないので、他を調整して腰で背負えるようにしてやったら肩がやっと楽になったようだ。「ミッチャンハ スーパーマン」と2回も言っている。スーパーマン?どういう意味で言っているのだろう?写真で比べてみると、バックパックの位置が10cm以上も上がっているので(左の写真)肩が楽になったのが良く分かる。バックパックの正しい背負い方を知らなかったり、靴紐の締め方やスティックのベルトが何のためにあるのかも知らないペリグリノは時々いる。仲良くなった人には教えてあげるが、カタコト英語だけで教えるには限界がある。

 Valença do Minho と言う大きな街に入って来た。大きな街は必ず迷うので、みんなで力を合わせて黄色い矢印を探しながら歩いて行く。やっぱり数人で探すと効果は絶大だった。誰かが見落としても他の誰かが見つけてくれる。我々はシックス・アイだと言って笑いあう。そしたらソロで歩いている顔見知りのイタリアおじさんもそれに加わったので更にパワーアップする。このおじさんは交通巡視員のような反射テープ入りの黄色いベストを着ているのでとても良く目立つ。おじさんはイタリア語オンリーで、そういうイタリア人は相手構わずイタリア語だけで当り前のように話し掛けてくる。たまには私も日本語だけで欧米人に話しかけてみたい。

 都会でバックパックを背負っていると半端なく浮いてしまうので嫌なのだが、4人で連れだって歩いていれば恥ずかしさもかなり軽減される。そこもグループで行動する利点のひとつかな。マリアはファルマシア(薬局)とさっきから騒いでいる。どっか調子が悪いのだろうか?見つけるとさっさと店の中に入って行き、膝サポーターを買って来たようだ。膝が悪かったのかと聞いたら、時々痛むそうだ。

 この街はポルトガル最後の街になるので、宿泊代の安いこの街に泊まってもいいかなと思っていたが、みんなは次のTuiを目指しているので自分もそうする。どっちみち巡礼路上にはアルベルゲが見つけられなかったし。
 ここは要塞の街だった。しかも城くらいの大きさの要塞で、スペイン国境と接しているので昔は戦略的に重要な地だったのが分かる。道の両側には土産物屋が沢山並んでいるので、観光地にもなっているようだ。もしまた来ることがあったら、次はここに泊まりたいな。

 高い塀で囲われた要塞の中をあっちへ行ったりこっちへ行ったりトンネルを潜ったりしてようやく要塞の外に出る階段までやって来た。そこにはフランシスカが休んでいた。ここは大きな木が日陰を作っているので、休むには絶好の場所だった。調度いいタイミングなのでみんなで一緒に休んで行くことにする。フランシスカは前にも小川のほとりで日陰になっていた絶好のお休みポイントで休んでいたし、こういうのを見つけるのが上手なようだ。フランシスカに「カミーノをロストした」と言ったら、曲がる所をまっすぐ行ってしまったので声を掛けたが気がつかなかったと言っている。追いかけてまで教えてくれる人は少ない。迷っても大体なんとかなるのが分かっているので。

 要塞を出るとすぐ国境の橋があった。今はEUなので素通りできるが、それ以前はここがスペインに行くための関所になっていたのだろう。大きな橋の中央には国境を示す文字がカラフルなペンキで描かれていた。
 歩いて国境を越えるのはこれで3度目になる。周りが海で外国に行くのを海外へ行くと大袈裟に言っている日本人にしてみれば変な感じだな。スペイン側に渡って来ると、EUになる前に使っていた監視所らしきいかめしい建物と、警官が乗っていないパトカー数台が停まっている。一応は国境なので、これってコケオドシの為なのか?

 目指すアルベルゲがどこにあるのかさっぱり分からないが、黄色い矢印を追っていけば大体行き着くので歩き続ける。歩いている途中、マリアがターニャに何やら話していて、どうもマリアはここのアルベルゲには泊まらないらしいのだけは分かったが、私営に泊まるのか次の町のポリーニョにバスで行くのか分からないまま別行動になる。ターニャには分かったのかな?イタリアおじさんは行くべき道が分かったのか、さっさとどっかに行ってしまった。ターニャと二人してTuiのアルベルゲを探し続ける。

 アルベルゲは巡礼路から少し外れた所にあったので分かりずらかったが、丁度迷ったところにいた警官に教えて貰えた。大きな教会の一部をアルベルゲにしてあるのかな?石作りで立派な建物だった。12時半着6ユーロ。オスピタレロがスペインは1時間進んでいることを教えてくれる。そうだ、スペインはサマータイムしてるのを忘れてた。

 
 すぐシャワーだ。仕切りもカーテンもないシャワールームだが、オープンしたてなので誰もいないから快適。でも前の廊下で何やら女の子の声がしているのが気になるな。そのあとターニャが廊下から何か言っているので「なにー?」と言ったら「レディースルーム」と2回言ったので、ここは女性用だったことに気が付く。ちょうど浴び終えた所だったのでさっさと出てくるとターニャがドアの所で待っていて、確かに入口の扉の上には女性用との文字があった。タハハ、昨年に続きこれで2回目だ。ま、中でバッティングしなくて良かった。

 ここには2回一緒のアルベルゲになった日本人のNさんが先着していた。折りたたみハンガーを幾つも持ち歩いていて、洗濯ものを1枚1枚それに掛けて干していた。この人は顔だけ覆えるミニ蚊帳を被って寝ていたこともあったし、小物に凝っているようだ。ここには他にも日本人のおじさん二人組がいた。フランス人の道を歩き終えてから、ポルトガル人の道の様子をみたくてやってきたらしい。数日歩いたら日本へ帰るのかな。

 洗濯してから買い物に行く前にキッチンをチェック。建物は立派だがここにはキッチンがまったくなくて、テーブルが並んでいるだけだ。仕方ないからここで封を切ればすぐ食べられる物を買ってきて食べるとするか。ポルトガルのアルベルゲはキッチンはあるし値段は安いし(ポルトガル5ユーロ、スペイン6ユーロ)、Wi-Fiだってポルトガルはタブレットでも利用できるが、スペインは通話できるスマホでないと利用することが出来ない性悪タイプだ。

 スーパーは大きなチェーン店のフロイスだったが、冷えたビールを置いてなかった。ダメ元で店員を捕まえて聞いてみたところ、肉屋コーナーへ連れてってくれて、係りに冷えたビールを出してと言ってくれる。冷えたビール、何ですぐ分かる所に並べて置かないのだろう?まさか店員専用?

 アルベルゲに戻ってすぐ飲みはじめたら、隣のテーブルに居た二人組の女の子が話しかけてくる。スーパーに行く途中で会ったアルベルゲを探していた子達で、教えて上げたのを覚えていた。マドリッドの専門学校生で、良く分からない英語とスペイン語でおしゃべりする。一人は社交的、もう一人は普通。今日が初日で、ここTuiから巡礼スタートするそうだ。Tuiからスタートするとコンポステラまで約115kmかな。徒歩で100km以上歩くと巡礼証明書が貰えるので、ここからスタートする人は大勢いるようだ。

 スーパーへ行く途中、巡礼メニュー6ユーロと言う看板を見たので、たまにはまともな食事をして栄養を取るかと行ってみることにする。ターニャに6ユーロだよと言ったら一緒に行くと付いてきた。でも本当のペリグリノ・メニューじゃなくてワンプレート料理だった(本当のペリグリノ・メニューは2皿選べてたっぷりワインとパン、デザート付)。ここのはポークステーキとフライドポテトにパンとグラスワイン。コーヒーも出るそうだが眠れなくなると嫌なのでノーサンキューと伝える。ターニャはビールだけでいいそうで、飲み終わったら先に帰ってしまった。

 帰りにスーパーへ寄って次ぐ朝の食料を仕入れる。桃缶(中)、ヨーグルト2、オレオのビスケット、缶ジュースで2.75ユーロ。レジで会計してたらアレハンドラと年配女性が一緒に入って来たので手を振って挨拶する。そう言えば前のアルベルゲでお喋りしたときに、Tuiから母親と歩くと言ってたのを思い出したので「ママ?」と聞いたらそうだって。ママも会釈してくれる。アレハンドラは若い女の子なので今まで一人旅は心細かっただろう。これからはママと一緒だから何の心配もないだろな。

 談話スペースで日記を付けていたらターニャがやって来た。ターニャの喋る英語は分かりやすいので楽しい。互いに難しい単語は知らないので、知っている範囲の言葉しか言わないから尚更なのだろう。ターニャも小さな手帳を出して日記を書き始めるようだ。でも、前にもそうだったように今回もペンを貸してくれと言っている。ペンを持っていないのかと聞いたら、誰かに上げてしまったそうだ。1本しかないペンを上げたのか、気前のいい子だなぁ。私はスペアボールペンを持っているので、今使っているペンを上げるよと言ったら「ミッチャンサンキュー」と、カタカナ読みの分かり易い発音で感謝される。「We are little speak English」と言ったら「but better」しかし十分だと返してくれる。色々なことを楽しく1時間くらい喋り続ける。相手が英語が達者なマリアとだと、こちらが一時停止やエンストするのでこうは話せないだろう。
 ターニャは明日、ポンテベドラを目指し、コンポステラ到着後はフィステラまで歩くそうだ。私の明日は短い距離を歩くので、残念ながらこれで一生の別れになるだろう。


ポルトガル人の道8へつづく